日本火山学会研究奨励賞 (Young Scientist Award)
第22号 吉村俊平
研究課題
「火山噴火現象を支配する素過程についての実験的・理論的研究」
選考理由
吉村俊平氏は、火山の噴火現象に関わる様々な素過程を対象として主に実験的・理論的な手法に基づいた研究を行い、マグマの開放系脱ガスのメカニズムの解明、マグマの脆性破壊面における焼結メカニズムの解明、マグマとCO2流体との相互作用の解明など、多くの研究成果をあげてきた。
マグマの開放系脱ガスの研究では、流紋岩質ガラスの加熱発泡実験を行い、発泡したマグマ中ではマグマの脱水と気泡の溶解が組み合わされた“拡散脱ガス” が進行し、マグマ中に形成される開放的クラック等の周囲では気泡を含まないメルト層が形成されることを見出した。また、そのプロセスを定式化した結果、黒曜石の薄層が拡散脱ガスによって形成されることを明らかにした。マグマの脆性破壊面についての研究では、接触並置した2個の含水流紋岩質ガラスを加熱し、初期境界面の様々な粗度について、焼結過程を温度の関数として定式化した。その結果、焼結時間は火山性地震の周期にほぼ一致することを示し、火山性地震がマグマの破壊・焼結の繰り返しで生じているとの仮説を裏付けた。マグマとCO2流体との相互作用についての研究では、水熱合成装置を用いてCO2流体とメルトの化学的相互作用を再現し、水に富むメルト中にCO2に富む流体が接触すると、メルトが脱水し、流体の体積分率が急上昇する現象を見出した。このことから、CO2に富む少量の流体が水に富むマグマ溜りに導入されることで、マグマ密度が劇的に低下し、噴火が引き起こされる可能性を示した。また、マグマ供給系におけるCO2流体の輸送モデルを構築し、火山噴出物の分析に基づき火山からのCO2放出量を定量化する新しい方法を提案した。
これらの研究は、火山噴火の諸現象の解明における着眼点の独創性、創意工夫に満ちた実験装置や実験システムの構築、そして天然試料や実験試料に対する卓越した洞察力でもって成し遂げられたものである。同氏の研究成果は、第一級の国際誌に掲載され、また国際学会での講演に何度も招待されるなど、国際的に高い評価を受けている。
このように吉村氏は、実験火山学の分野で先駆的な業績を挙げ、今後もさらなる展開・飛躍が期待される研究者である。以上から、吉村俊平氏を日本火山学会研究奨励賞に相応しいと判断する。
主要な研究業績
- Yoshimura, S., Nakamura, M. (2013) Flux of volcanic CO2 emission estimated from melt inclusions and fluid transport modelling. Earth Planet. Sci. Lett., 361, 497-503. doi: 10.1016/j.epsl.2012.11.020
- Yoshimura, S., Nakamura, M. (2011) Carbon dioxide transport in crustal magmatic systems. Earth Planet. Sci. Lett., 307, 470-478. doi: 10.1016/j.epsl.2011.05.039
- Yoshimura, S., Nakamura, M. (2010) Chemically driven growth and resorption of bubbles in a multivolatile magmatic system. Chem. Geol., 276, 18-28. doi: 10.1016/j.chemgeo.2010.05.010
- Yoshimura, S., Nakamura, M. (2010) Fracture healing in a magma:An experimental approach and implications for volcanic seismicity and degassing. J. Geophys. Res., 115(B9), B09209. doi: 10.1029/2009JB000834
- Yoshimura, S., Nakamura, M. (2008) Diffusive dehydration and bubble resorption during open-system degassing of rhyolitic melts. J. Volcanol. Geotherm. Res., 178(1), 72-80. doi: 10.1016/j.jvolgeores.2008.01.017