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日本火山学会研究奨励賞 (Young Scientist Award)

第24号 前田裕太

研究課題

「火山性地震の波形解析に基づく流体移動と噴火過程の研究」

選考理由

 前田裕太氏は、火山性地震の波形解析手法の開発や理論の構築という基礎的なアプローチに基づいて、流体の移動と噴火過程の理解に関する研究に取り組んできた。同氏の研究は、広帯域地震計記録を用いた地震学的な解析にとどまらず、他の観測量との関連を定量的に議論するなど、火山学にとって本質的な情報の総合化による噴火モデルの構築に大きく寄与している。
 地震計の水平成分には傾斜変化が混入する。特に火山における長周期震動の解析においてはこのような傾斜の影響が無視できないことが知られていた。前田氏は傾斜の影響を受けた地震波形から、並進と傾斜成分を波形インバージョンによって同時に推定する手法を開発した。浅間山で観測された超長周期イベントの広帯域地震波形には明瞭な傾斜の影響が記録されていた。前田氏は自ら開発した手法を用いて、従来の波形インバージョン手法では解析が出来なかったこのイベントのモーメントテンソル解を推定し、それが体積変化を伴うクラックと円筒状震源の組み合わせで表現できることを示した。さらにその体積変化はマグマからのガスの流入によって生じていると解釈した。この解釈はその後の浅間山における地震とガスの並行観測による研究によって裏付けられた。
 さらに前田氏は、フィリピンのマヨン火山で発生した水蒸気噴火に伴う広帯域地震波形の解析を行い、この水蒸気噴火が火口浅部の水平クラックの体積変化と下向きのシングルフォースのメカニズムを持つことを推定した。この結果は、地下水の突沸によりクラックの内圧が高められ、クラックの一部が破壊されたことにより水蒸気の噴出が起こったと解釈された。さらに破壊された部分が、鉱物の沈着といった化学的作用によって修復され、クラックが密閉されることで、水蒸気噴火が繰り返し発生するモデルを提案した。このモデルは地殻変動等の前兆的現象の乏しい水蒸気噴火の特徴を説明している。他にも、フィリピンのタール火山で観測された低周波地震の解析から水蒸気の移動および凝縮過程に基づくクラック振動の励起モデルの構築やクラック振動モデルの振動周波数の解析式の導出等の成果を上げている。以上から、前田裕太氏を日本火山学会研究奨励賞に相応しいと判断する。

受賞対象論文


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