日本火山学会研究奨励賞 (Young Scientist Award)
第29号 無盡真弓
受賞対象
「ナノスケール火山岩岩石学の創出とその噴火ダイナミクスへの応用」
授賞理由
無盡真弓氏は、マグマのナノスケール結晶作用から噴火ダイナミクスを解明する火山学の新たな分野を開拓した。
含水マグマの減圧結晶作用で晶出する火山岩のマイクロライトは、マグマの上昇過程を記録するため、1990年代以降、精力的に研究されてきた。しかし近年、噴火様式が火道の浅部で分岐し、マイクロライトはしばしばその違いを記録していないことが知られるようになった。無盡氏は、その好例である霧島火山新燃岳2011年噴火において、サブプリニー式噴火軽石・ブルカノ式噴火軽石・溶岩片それぞれで、ナノスケール結晶の種類が明瞭に異なることを発見し、噴火様式の分岐条件を記録している可能性があることを示した。さらに1 nmまでの結晶サイズ分布やサブミクロンサイズの鉱物化学組成を分析し、火道浅部での結晶核形成ステージを明らかにした。これらの観察に基づき、直径30 nm以下の結晶(または結晶前駆体)をウルトラナノライトと命名し、幅30 nm~1 µmの結晶をナノライトと再定義した。斑晶、マイクロライトと並ぶ火山岩岩石学の最も基本的な用語を命名・再定義したことの意義は大きい。
マグマの結晶作用を根本から理解するには、結晶核形成・初期成長機構を理解する必要がある。これらはミリ秒単位の高速な現象であるため、無盡氏はマグマの結晶作用の電子顕微鏡その場観察という新たな研究手法の開発に挑戦し、世界で初めて成功している。
以上のように優れた論文を発表し、将来も火山学の発展への貢献が期待されると考えられることから、無盡真弓氏を日本火山学会研究奨励賞の受賞者とする。